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函館地方裁判所 昭和28年(ヲ)196号 決定

当裁判所が、昭和二八年九月一七日被申立人、申立外新谷忠一、新谷豊広間の、昭和二八年(ケ)第九七号不動産競売事件について、別紙目録<省略>記載の不動産に対して、為した不動産競売開始決定は、これを取消し、右不動産に対する競売申立はこれを却下する。

申立費用は被申立人の負担とする。

二、事  実

申立代理人は主文第一項同旨の決定を求め、その事由として

一、被申立人は、申立外新谷忠一、新谷豊広に対して、昭和二八年七月二四日一一六四五〇二円五〇銭を、弁済期昭和二八年九月三日利息の定めなく、弁済期後は日歩五銭の割合による遅延損害金を支払う約束で連帯して貸与し、その担保として、右申立外人ら各所有の別紙目録記載の不動産(以下本件不動産とよぶ)に対して、抵当権を設定したとして昭和二八年八月四日函館地方法務局受附番号土地建物いずれも第六七七九号をもつて、右抵当権設定登記を為したうえ昭和二八年九月八日函館地方裁判所に対して、右抵当権実行のため不動産競売の申立を為し、同裁判所から昭和二八年九月一七日これが競売開始決定((ケ)第九七号事件)を得た。

二、ところで、申立人は、昭和二八年七月一〇日右申立外人らから本件不動産を、昭和二九年五月末日代金を決定して買受けるという予約を締結し、昭和二八年七月一七日函館地方法務局受附番号土地については、第六〇九六号建物については第六〇九七号をもつて右所有権移転請求権保全の仮登記を為したが、昭和二八年一〇月五日右訴外人らを相手方とする函館簡易裁判所における調停によつてその代金を合計一四七五〇〇〇円と決定し、ここに本契約を完結し、昭和二八年一〇月七日および同月九日にわたつて、右売買による所有権移転の本登記を為した。

三、よつて、被申立人の前記抵当権実行は不当であつて、本件競売開始決定は許されないものであるから、その取消を求めるため異議におよんだ旨述べ、被申立人の抗弁事実を否認した。

四、立証<省略>

被申立人代理人は、申立人の異議は棄却するとの決定を求め、答弁として、申立人主張の事実中一記載の事実、二記載の事実中申立人主張のような仮登記および本登記が為されている事実はこれを認めるが、申立外新谷忠一、新谷豊広が申立人主張のような売買契約を締結した事実はこれを否認する。したがつて、右仮登記およびその本登記はその原因を欠く無効なものである。仮に、右契約が真実締結されたとしても、申立人主張の仮登記が登記簿に現実に記載されたのは被申立人が申立人主張の抵当権設定登記を申請し、登記簿に記載された後であるから、申立人はその主張の本登記を為したことによつて本件不動産の取得を被申立人に対抗し得ない。よつて、申立人の異議は失当である旨述べた。<立証省略>

三、理  由

申立人主張一記載の事実、同主張二記載の事実中、本件不動産について、申立人主張の日時および受附番号をもつて、その主張のような売買予約を原因とする旨の仮登記および右売買を原因とする旨の本登記がなされていることは当事者間に争がない。しかして、成立に争のない甲第四号証(調停調書)および登記官庁作成部分の成立に争がなくその余は右第四号証に対比して真正に成立したものと認める甲第二号証の一、二(登記済証)によれば、申立人は昭和二八年七月一〇日申立外人らと申立人主張のような売買の予約を締結し、昭和二八年一〇月五日申立人主張のようなゆきさつによつて本契約を完結した事実を認めるに足り右認定をくつがえす証拠はないので、右各登記はいずれも有効と解すべきである。よつて、被申立人の抗弁について考えるに、成立に争のない乙第一号証の一ないし八(登記簿謄本)および証人藤井源蔵の証言によれば、本件不動産中建物については、被申立人が前記抵当権設定登記申請前に申立人の右仮登記が登記簿に記載されていたが、土地については申立人の右仮登記申請が受附られた後に被申立人の前記抵当権設定登記の申請が受附られたのにもかかわらず、右仮登記が現実に登記簿に記入されたのは、前記抵当権設定登記記入後である昭和二八年八月十一日以後であることが推認される。よつて、右のように、同一不動産について甲乙異種の登記申請が、時を前後して受附けられたのに、これを受理した登記官吏が、受附番号の順序に従わず登記簿にその記入を為した場合には、その権利の順位は如何に決定すべきか考えてみるに、不動産に関する物権の得喪変更は、登記を為すにあらざれば第三者に対抗し得ないことは民法第一七七条の規定するところであるが、右は登記された権利の順位を定めたものでは勿論ない、もとより、登記制度の目的は、これによつて不動産に関する法律関係を公示し取引の安全を図るにあつて、かりに、登記官吏が登記申請を受理しても、これを登記簿に記入しないうちは、その物権変動の対抗力を生じないことはいうまでもないが、すでに登記された権利の順位の優劣は、もつぱら、不動産登記法第六条の規定するところであつて同条によれば、登記したる権利の順位は登記の前後によつて決定すべきものであるが、同法は、登記簿編製方法として所有権を甲区にその以外の権利は乙区に登記する方法を採つたために、甲乙異種の権利は、右登記の受附番号によつてこれを決定することにしたのである。したがつて、前記のように登記官吏が、受附番号の順序に従わず登記簿に登記事項を記入した場合においても、登記された異種の権利の順位は、受附番号によつてこれを決定すべく、現実に右権利が登記簿に記入された日時の前後によつて決定すべきではないと考える。けだし、登記された権利の順位を、常に、登記簿に記入された日時によつてこれを決定するものとすればこの点に関する同法第六条の規定は、まつたく無意義となるべく、これを要するに問題は、同一不動産上の甲乙異種の登記権利者が、その登記申請を受附けられた当時においては、いずれもその競合する他の権利の登記が為されていない場合であるから、そのいずれを先順位とするも右登記申請当時登記簿上に発見することができない他の権利が、後日自己の登記された権利に優先するものとして現われてくる結果になるのであつて、必ずや他の権利者に不測の損害を被らしめるおそれがあるからである。したがつて、この場合は、不動産登記簿上いわゆる公示の原則は、まつたくその意味を有しない。ここに、不動産権利の変動は登記されてはじめてその対抗力を有するにいたるということによつて、その登記の順位を定めることはできないものであつて、かえつて右権利の順位は同法第六条によつて決定された後に右権利間の対抗力の関係が定まるものであることを理解しなければならない。

はたして、以上のとおりとすれば、申立人の仮登記受附番号は被申立人の前記抵当権の受附番号より先順位であるから被申立人の抵当権は申立人の所有権に対抗し得ないものというべく、したがつて、右抵当権の実行は不当であつてこれに基く当裁判所が為した競売開始決定は、許されないものであるから民事訴訟法第五四四条、第八九条を準用して主文のとおり決定した。

(裁判官 水野正男)

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